マテリアリティ特定とは?中小企業が進める実務的な5ステップ

マテリアリティとは、自社にとって優先して取り組むべき重要課題のことです。中小企業でも、課題の洗い出し、影響の評価、優先順位づけ、経営層の承認、見直しという5つのステップで無理なく進められます。大企業と同じ手法を再現する必要はありません。本記事では、取引先や金融機関への説明に使える形で、実務の進め方と注意点を整理します。

取引先や金融機関からESGへの取り組みについて問われたとき、必ず出てくる言葉の一つが「マテリアリティ」です。聞き慣れない言葉のため、何から手をつければよいのか分からないという中小企業の経営者・担当者は少なくありません。この記事では、マテリアリティの意味と、中小企業が現実的な負担で特定を進めるための手順を整理します。

マテリアリティとは何か

マテリアリティ(materiality)は、日本語では「重要課題」や「重要性」と訳されます。サステナビリティの文脈では、自社の事業や社会・環境にとって影響が大きく、優先して取り組むべき課題を指します。環境、社会、ガバナンスに関わる課題は数多くありますが、限られた人員と予算ですべてに対応することはできません。そのため、何に重点を置くかを決める作業がマテリアリティ特定です。

「重要」の見方は2つある

マテリアリティには、大きく分けて2つの見方があります。1つは、サステナビリティ課題が自社の財務(収益やコスト、資金調達など)にどう影響するかという見方です。もう1つは、自社の事業活動が環境や社会にどのような影響を与えるかという見方です。前者は投資家の視点、後者は社会全体への影響の視点と整理されることが多く、開示基準によってどちらを重視するかが異なります。

たとえば、国際的な開示基準を策定するISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、2021年11月にIFRS財団によって設立され、投資家のニーズに焦点を当てた基準の開発を目的としています。一方、GRI(Global Reporting Initiative)のスタンダードには、重要なトピックの決め方を示したGRI 3(Material Topics)が含まれ、2021年10月に改訂版が公開され、2023年1月1日から適用されています。日本国内では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国内向けの開示基準を策定しています。

詳しい基準の内容は専門的ですが、中小企業がまず押さえておけばよいのは、次の点です。重要性には「自社への影響」と「社会・環境への影響」の両面があり、どの視点を中心に据えるかは、開示の相手(取引先、金融機関、投資家)によって変わるということです。

参考:基準策定団体の情報

各基準の最新情報は、公式サイトで確認できます。

中小企業にもマテリアリティ特定が必要な理由

マテリアリティ特定は上場企業だけの話だと思われがちですが、中小企業にとっても意味があります。理由は主に3つです。

取引先・金融機関への説明の軸になる

大手取引先は、自社のサプライチェーン全体での課題管理を進めており、取引先の中小企業にもアンケートや取り組み状況の確認を求めるケースが増えています。また、金融機関も融資判断や対話の中で、サステナビリティへの姿勢を確認することがあります。そのとき、自社が何を重要課題と考え、なぜそれに取り組むのかを説明できれば、個別の質問に場当たり的に答えるよりも、一貫した説明ができます。

限られた経営資源を集中できる

人手も予算も限られる中小企業では、あれもこれもと取り組むと、どれも中途半端になりがちです。優先課題を決めておくことで、取り組みの順番や投資の判断がしやすくなります。

事業機会とリスクの両方が見える

マテリアリティの検討は、リスクの洗い出しだけでなく、事業機会の発見にもつながります。たとえば、省エネ製品への需要の高まり、人材確保に有利な職場環境づくり、地域との関係強化など、自社の強みを生かせる領域が見えてきます。

中小企業向け・マテリアリティ特定の5ステップ

大企業では、外部の専門家や多数の部署を巻き込んで数か月かけて特定する例もありますが、中小企業が同じやり方を再現する必要はありません。次の5ステップであれば、少人数でも進められます。

ステップ1:課題の候補を洗い出す

最初に、自社に関係しそうなサステナビリティ課題を幅広く書き出します。ゼロから考えるのは大変なので、次のような材料を使います。

  • GRIスタンダードなどの開示基準に出てくるトピック一覧
  • 同業他社や取引先が公開している統合報告書・サステナビリティ報告書の重要課題
  • 取引先から届いたアンケートや調達方針に出てくる項目
  • 業界団体や自治体が公開しているガイドライン

この段階では、数を絞り込む必要はありません。気候変動、エネルギー使用、廃棄物、人材の確保と育成、労働安全、ダイバーシティ、取引先との関係、情報セキュリティ、地域貢献、法令遵守といった項目を、20〜30件程度並べてみるとよいでしょう。

ステップ2:自社の事業との関係を整理する

次に、洗い出した課題が、自社のバリューチェーン(調達、製造・サービス提供、販売、廃棄)のどこに関係するかを整理します。製造業であれば、調達先の労働環境や、工場でのエネルギー使用が中心になるかもしれません。サービス業であれば、従業員の働き方や顧客データの管理が中心になるでしょう。

ここで重要なのは、自社の実態に即して考えることです。他社の重要課題をそのまま写しても、自社の説明にはなりません。

ステップ3:2つの軸で評価する

課題ごとに、次の2つの軸で、高・中・低といった簡易な段階評価をします。

  • 自社の事業への影響度:その課題が、自社の売上、コスト、資金調達、人材確保などにどの程度影響するか
  • ステークホルダーの関心度:取引先、金融機関、従業員、地域社会などが、その課題をどの程度重視しているか

評価は厳密な数値でなくてかまいません。経営層や各部門の責任者数名で集まり、付箋やスプレッドシートを使って点数をつけていく方法でも十分に機能します。可能であれば、主要な取引先や従業員の声も聞き、評価に反映させるとより説得力が増します。

ステップ4:優先順位をつけ、経営層で決定する

評価の結果を、縦軸と横軸のマトリクス図に配置すると、優先度の高い課題が見えてきます。そこから、取り組む課題を絞り込みます。中小企業の場合、重要課題は3〜5件程度に絞ると、現実的に運用しやすくなります。

絞り込んだ課題は、必ず経営層(経営者)が最終決定してください。マテリアリティは担当者が作る資料ではなく、経営の意思表示であり、事業戦略と結びついていることが重要だからです。決定後は、各課題について、目標や担当部署、確認する指標(KPI)を最低限設定しておくと、取り組みが続きやすくなります。

ステップ5:開示し、定期的に見直す

決定した重要課題は、自社のウェブサイトや報告書、取引先への回答などで説明できるようにします。その際は、課題の一覧だけでなく、なぜその課題を選んだのか、どのように決めたのかというプロセスも簡潔に示すと、信頼性が高まります。

そしてマテリアリティは、一度特定して終わりにするものではありません。事業環境、法規制、取引先の要求、社会の関心は変化します。そのため、少なくとも年に1回は見直しを行い、必要に応じて内容を更新することが推奨されています。

進めるときの注意点

他社の真似だけで終わらせない

同業他社の重要課題は有力な参考になりますが、事業規模や地域、取引構造が異なれば、重要課題も変わります。参考にしたうえで、自社の事業にとってなぜ重要なのかを自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。

課題を並べすぎない

重要課題が10件、20件と並んでしまうと、優先順位をつけた意味が薄れます。取り組みの実行力という観点からも、絞り込むことが大切です。

実行できない目標を掲げない

見栄えの良い目標を掲げても、実行できなければ、かえって取引先や金融機関からの信頼を損ねます。現在の体制で実現できる範囲から始め、段階的に引き上げる姿勢が現実的です。

温室効果ガス排出の扱いに注意する

気候変動を重要課題とする場合、温室効果ガス(GHG)排出量の算定が必要になることがあります。取引先が大手企業の場合、スコープ3(サプライチェーン全体の排出)の観点から、取引先の排出量データを求められる場合もあります。スコープ1・2・3の違いや算定の進め方は別の記事で解説していますので、あわせて参考にしてください。

よくある質問

専門家に依頼しないと特定できませんか

必須ではありません。上記の5ステップは、社内の少人数でも進められます。ただし、客観的な視点がほしい場合や、開示の相手が投資家など専門的な対応を求める場合には、外部の専門家やコンサルタントの支援を受ける選択肢もあります。

どのくらいの期間がかかりますか

課題の洗い出しと評価、経営層での議論を合わせて、集中して進めれば数週間程度で一次案をまとめることも可能です。ただし、ステークホルダーへの聞き取りを含める場合は、その分だけ時間が必要になります。

取引先の要求と自社の重要課題が違う場合はどうしますか

取引先からの要求は、自社にとって重要なステークホルダーの関心として、評価に反映させる必要があります。そのうえで、自社の事業にとっての影響度も踏まえて、総合的に優先順位を判断します。取引先の要求事項は、必ず対応が求められるものと、自社の判断に委ねられるものを区別して整理しておくとよいでしょう。

まとめ

マテリアリティ特定は、自社が何に優先して取り組むのかを決める作業であり、ESG対応全体の出発点になります。中小企業は、次の流れで進めると無理がありません。

  1. 課題の候補を幅広く洗い出す
  2. 自社の事業との関係を整理する
  3. 事業への影響度とステークホルダーの関心度で評価する
  4. 3〜5件程度に絞り、経営層が決定する
  5. 開示し、少なくとも年1回は見直す

完璧な特定を目指すよりも、まず一次案を作り、運用しながら改善していく姿勢が大切です。最初の一歩として、自社の事業に関係しそうな課題を書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。

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