中小企業版SBTとは?対象条件・通常のSBTとの違い・申請までの流れを整理

中小企業版SBTとは、SBTi(Science Based Targets initiative)が定める、中小企業向けの簡易な目標設定・検証のルートのことです。Scope1とロケーション基準のScope2の合計が10,000tCO2e未満などの条件を満たす企業が使えます。この記事では、通常のSBTとの違い、対象条件、目標設定から申請までの流れを、SBTi公式のFAQと環境省の資料に基づいて整理します。

中小企業版SBTとは?取引先や金融機関に示せる削減目標の第三者認定

中小企業版SBTとは、SBTi(Science Based Targets initiative)が用意している、中小企業向けの目標設定・検証のルート(SME validation route)のことです。一般に「SBT認定」と呼ばれる、科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標の第三者検証を、より少ない負担で受けられるようにした仕組みです。

取引先から排出量の算定を求められたり、金融機関から脱炭素の取り組みを尋ねられたりする場面が増えるなかで、「削減目標を第三者に認めてもらう」ことを検討する中小企業の経営者・サステナビリティ担当者は少なくありません。この記事では、中小企業版SBTの対象条件、通常のSBTとの違い、目標設定から申請までの流れを、公的な資料で確認できる範囲に絞って整理します。

なお、SBTiの基準は改定されることがあります。この記事の内容は2026年10月時点でSBTi公式サイトのFAQなどを確認したものです。申請を検討する際は、公式の最新版をあわせて確認してください。

SBTとは何か?まず押さえたい基本

SBTとは、パリ協定の目標と整合した、科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標のことです。企業が自社で掲げた削減目標を、SBTiが(実際の検証はSBTi Servicesが)審査し、基準に合致していれば認定される、という流れになります。

目標が検証されると、SBTiの公式サイトにある「Target dashboard」で、目標を持つ企業を確認できるようになります。そのため、取引先や金融機関に対して「第三者が確認した目標を持っている」ことを示す材料になります。一方で、認定は削減の実績を保証するものではなく、あくまで「目標の設定内容」を検証する仕組みです。

通常のSBT(SBTiのドキュメントでは「corporate route」と呼ばれます)は、大企業を想定した基準で、排出量の算定範囲や目標の置き方に細かな要件があります。中小企業にとっては、算定や資料づくりの負担が大きくなりがちです。これを緩和するために用意されたのが、中小企業向けのルートです。

中小企業版SBTと通常のSBTは何が違うのか

最も大きな違いは、スコープ3の扱いと、目標の設定のしかたです。結論から言うと、中小企業版SBTでは、近い将来の目標(ニアターム目標)でスコープ3の削減目標を求められません。ただし、スコープ3の排出量を測定し削減に取り組む意思表明は必要です。

項目通常のSBT(corporate route)中小企業版SBT(SME route)
対象企業規模を問わず利用できる標準ルートSBTiの定める中小企業の適格条件を満たす企業
目標年目標提出日から5〜10年先SBTiが定める選択肢から選ぶ形式(2030年までの削減など)
スコープ3スコープ3の排出量が、スコープ1・2・3の合計の40%を超える場合は、スコープ3も目標の対象にする必要があるニアターム目標では、スコープ3の目標は求められない。ただし測定・削減に取り組む意思表明が必要。ネットゼロ目標を設定する場合は、スコープ3の目標も必要
コミットメント(目標提出の事前宣言)利用できる利用できない(SMEは設定の対象外とされている)
申請のしかた標準の検証手続き中小企業向けの申請チェックリストに沿って準備し、SBTi Servicesの検証ポータルで申請

上の表のとおり、中小企業版は「自社の事業活動からの排出(スコープ1・2)に集中して、まず目標を持つ」ことを後押しする設計です。ただし、スコープ3を考えなくてよいという意味ではありません。スコープ1・2・3の違いについては、スコープ1・2・3の違いと中小企業が優先すべきGHG算定の進め方で整理しています。

中小企業版SBTの対象条件は?

対象になるのは、SBTi公式FAQに定められた適格条件を満たす企業です。結論として、スコープ1とロケーション基準のスコープ2の合計が10,000tCO2e未満であることが前提で、そのうえで規模などの条件が加わります。

すべて満たす必要がある条件

SBTi公式FAQでは、次の4つをすべて満たすことが求められています。

  • スコープ1とロケーション基準のスコープ2の合計が、10,000tCO2e未満であること
  • 金融機関(Financial Institutions)、石油・ガス(Oil & Gas)セクターに分類されないこと
  • セクター別の基準(Sectoral Decarbonization Approachなど)で目標を設定する必要がないこと
  • 親会社の事業全体が通常のSBT(corporate route)の対象になる場合、その子会社でないこと

あわせて満たす規模などの条件

上の4つに加えて、次の4つのうち3つ以上に当てはまる必要があります。

  • 従業員が250人未満であること
  • 売上高が5,000万ユーロ未満であること
  • 総資産が2,500万ユーロ未満であること
  • 必須のFLAGセクター(森林・土地・農業)に該当しないこと

排出量の条件でいう「ロケーション基準のスコープ2」とは、電気の使用量に、電力を使った地域の電力網の平均的な排出係数を掛けて計算する方法です。購入した電力会社ごとの排出係数(マーケット基準)を使う算定とは、数値が異なる場合があります。判定に使う数値は、どの基準で出したのかを記録しておくことをおすすめします。

環境省の「Q&A(よくある質問)」でも、中小企業向けSBTの条件が日本語で説明されています。ただし、これらの資料は作成時点の内容に基づいており、SBTiの改定により条件の数え方などが変わっている可能性があります。実際の判定は、SBTi公式の最新FAQで行ってください。

中小企業版SBTではどのような目標を設定するのか

SBTi公式FAQによると、中小企業向けのルートでは、あらかじめ定められた選択肢から目標を選びます。企業が目標の数値や年を自由に作るのではなく、定められた型に当てはめる形です。

  1. ニアターム目標:スコープ1・2の排出量の絶対量を、2030年までに削減する
  2. ニアタームの維持目標:スコープ1または2の排出量がすでにゼロの組織が、その状態を維持する
  3. ネットゼロ目標:遅くとも2050年までにネットゼロを目指す。ニアターム目標とあわせて、スコープ1・2・3を対象にする

多くの中小企業にとって現実的なのは、1つ目のスコープ1・2の削減目標です。スコープ3の目標が必要になるのは、ネットゼロ目標を選ぶ場合です。

ここで気をつけたいのは、目標は定められた選択肢から選ぶ形で、自社の都合に合わせて自由に設計できるものではない点です。削減が見込みにくい設備や拠点がある場合は、目標を選ぶ前に、どこで削減できるのかを現場と確認しておくことをおすすめします。

中小企業版SBTの申請の流れは?ステップで確認

申請の流れは、「排出量を把握する」「条件を確認する」「目標を選ぶ」「申請する」の順です。結論として、最も時間がかかるのは最初の排出量の把握です。

ステップ1:スコープ1・2の排出量を算定する

電気・ガス・燃料などの使用量から、自社のスコープ1・2の排出量を算定します。算定の考え方は、取引先からCO2排出量の算定を依頼されたらでも取り上げています。算定に慣れていない場合は、SBTiが紹介している無料のツール(SME Climate Hubの計算ツールなど)を使う方法もあります。

ステップ2:適格条件を確認する

前の項目で挙げた条件に照らして、自社が中小企業版の対象かどうかを確認します。排出量が10,000tCO2eに近い場合や、親会社がある場合は、通常のSBTの対象になる可能性があるため、特に慎重に確認します。

ステップ3:目標を選ぶ

ニアターム目標など、定められた選択肢から目標を選びます。選んだ目標について、社内の経営会議などで、実行できる計画があるかを議論しておくと、申請後の運用がスムーズです。

ステップ4:申請チェックリストで準備する

SBTiは、中小企業向けに「Target Validation Application Checklist for SMEs」(申請チェックリスト)を公開しています。提出前に、必要な情報がそろっているかを確認するための資料です。

ステップ5:検証ポータルで申請する

SBTi公式FAQでは、SBTi Servicesの検証ポータル(Validation Portal)でアカウントを登録し、申請する流れが案内されています。なお、中小企業は「コミットメント」(目標を出す前の事前宣言)の対象外とされています。

ステップ6:検証結果を受け取り、公表する

検証を通過すると、目標が認定され、公表できる状態になります。公表後は、削減の進み具合を社内で追い、取引先や金融機関への説明に使っていきます。

費用や期間はどのくらいかかるのか

費用は、組織の種類・規模・目標の種類によって変わります。SBTi公式サイトの「Validation services」のページには、SBTi Servicesが目標の評価・検証に手数料を求め、その金額は組織の種類と規模、目標の種類によって異なると書かれています。具体的な金額は、SBTi Servicesの料金表(Service Offering)で最新のものを確認してください。

審査にかかる期間は、公式FAQの中小企業向けの項目では明記されていません。社内の決裁や、取引先への開示時期から逆算して、余裕を持って準備を始めることをおすすめします。

申請前に確認しておきたい注意点

  • 目標の認定は、削減の実績を保証するものではありません。認定後に、実際の削減を進める体制が必要です。
  • スコープ3の測定と削減への取り組みは、中小企業版でも求められます。取引先の排出を把握する方法を検討しておきます。
  • 算定に使った排出係数・データの出典を、あとから説明できる形で保管します。
  • 基準は改定されます。申請する時点の最新のFAQとチェックリストを確認します。
  • SBTは、目標を第三者に認めてもらう手段の1つです。取引先からの要請が算定とデータ提供にとどまる場合は、まず算定から始める方法もあります。

ネクストプレナーズの見解:SBTの前に、算定の基盤を整えることをおすすめします

中小企業にとって、SBTは「取るべき資格」というより、「取引先や金融機関に説明するための選択肢の1つ」だと考えます。取引先から求められているのが排出量のデータ提供であれば、まず自社のスコープ1・2を正確に算定し、説明できる状態にすることが先だと考えます。

よくある誤解は、「SBTを取れば取引先の要請がすべて満たされる」というものです。認定は目標の設定内容を検証するもので、取引先ごとの調査票や算定の依頼に代わるものではありません。算定の基盤を整えたうえで、削減目標を持つ必要性が見えてきた段階で、中小企業版SBTを検討する流れをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

中小企業版SBTの条件は?

スコープ1とロケーション基準のスコープ2の合計が10,000tCO2e未満であることなどが条件です。加えて、従業員250人未満、売上高5,000万ユーロ未満、総資産2,500万ユーロ未満、必須のFLAGセクターに該当しない、の4つのうち3つ以上に当てはまる必要があります(SBTi公式FAQ)。

中小企業版SBTでスコープ3の目標は必要ですか?

ニアターム目標では、スコープ3の削減目標は求められません。ただし、スコープ3の排出量を測定し削減に取り組む意思表明は必要です。ネットゼロ目標を設定する場合は、スコープ3の目標が必要になります。

中小企業版SBTの申請手順は?

排出量を算定し、適格条件を確認し、定められた選択肢から目標を選び、申請チェックリストで準備したうえで、SBTi Servicesの検証ポータルから申請します。

中小企業版SBTの費用はいくらですか?

費用は組織の種類・規模・目標の種類によって異なります。金額はSBTi Servicesの料金表で確認してください。

中小企業版SBTでコミットメントはできますか?

できません。SBTi公式FAQでは、中小企業はコミットメントの対象外と明記されています。

排出量が10,000tCO2eを超えたらどうなりますか?

排出量の条件(10,000tCO2e未満)を満たさなくなるため、中小企業版の対象外になります。その場合の進め方は、SBTi公式の最新の基準で確認してください。

監修

監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)

東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。

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