サステナビリティ経営の進め方|中小企業が最初の1年で取り組む手順と月別スケジュール

サステナビリティ経営は、中小企業なら「現状把握→GHG排出量の算定→マテリアリティ特定と目標設定→情報開示」の4ステップを、月単位で順に進めると最初の1年で形にできます。この記事では、環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームなどの公開情報に基づき、1年間のスケジュールの目安、各ステップでやること、使える公的な支援、つまずきやすい点を、予算や人員が限られる経営者・推進担当者向けに整理します。

サステナビリティ経営の進め方は「4ステップ×12か月」で考える

サステナビリティ経営を中小企業が始めるときは、「現状把握」「GHG排出量の算定」「マテリアリティ特定と目標設定」「情報開示」の4ステップを、月単位のスケジュールに落として順に進める方法が分かりやすいと考えられます。最初の1年で目指すのは、完璧な取組ではなく、自社の排出量と重要課題を把握し、小さくても公表できる状態にすることです。

この記事では、サステナビリティ経営の進め方として、中小企業が最初の1年で取り組む手順と年間スケジュールを整理します。制度や数値の説明は、環境省などの公的な資料で確認できた内容に限っています。一方、月ごとの配分は、ネクストプレナーズが支援を設計する際の目安であり、統計に基づく平均値ではありません。

サステナビリティ経営とは?中小企業が最初に取り組む理由

サステナビリティ経営とは、環境(E)・社会(S)・企業統治(G)に関する課題を事業の意思決定に組み込み、長く事業を続けられる状態をつくる経営のことです。大企業だけの取組と思われがちですが、中小企業にも取り組む理由があります。

環境省・経済産業省・農林水産省が運営する「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」では、脱炭素経営を「知る・測る・減らす」の3段階で情報提供しています。同じサイトの「CO2削減の考え方」のページでは、脱炭素経営は特別な企業だけの取組ではなく、省エネや再エネの活用でCO2を減らすことが、コスト削減や競争力の強化にもつながると説明されています。

つまり、サステナビリティ経営の入口は、理念を掲げることよりも、自社の現状を数字で測ることにあります。測ったデータは、取引先からの問い合わせへの回答、金融機関や採用の場での説明、省エネによるコスト削減の検討など、複数の場面で使い回せます。

最初の1年の年間スケジュール(月別の目安)

最初の1年の年間スケジュールは、次の5つの区間に分けると管理しやすくなります。ネクストプレナーズのサービスページでも、同じ4ステップを「約1か月」「約1〜2か月」「約1〜2か月」「約2〜3か月」の目安で案内しています。残りの期間は、実行と見直しに充てます。

  • 1か月目:現状把握・優先課題の明確化。現状の取組、取引先や金融機関からの要請、社内の担当者を洗い出します。
  • 2〜3か月目:GHG排出量の算定。Scope1・2を中心に、請求書などから活動量を集めて排出量を計算します。
  • 4〜5か月目:マテリアリティ特定と目標設定。自社にとって重要な課題を絞り、削減目標を決めます。
  • 6〜8か月目:情報開示と社内外への発信。Webサイトや簡易な報告書で取組を公表し、社内にも共有します。
  • 9〜12か月目:削減の実行と見直し。省エネなどの対策を進め、算定データを更新して来年度の計画につなげます。

この配分は、排出量の算定に必要な請求書や使用量のデータが、年度の途中から集めやすいかどうかで前後します。決算期や繁忙期を先にカレンダーへ書き込み、データを集める月が繁忙期と重ならないように調整することをおすすめします。

ステップ1:現状把握と優先課題の明確化(1か月目)

1か月目にやることは、自社が今どの位置にいるのかを把握し、最初に取り組む課題を決めることです。いきなり算定やレポート作成に入らず、この段階で目的を決めておくと、後の作業がぶれにくくなります。

1か月目にやること

  • 推進担当者を決める(兼任でも構いません)。
  • 取引先・金融機関・従業員から、どのような要請や期待があるかを書き出す。
  • すでに実施している取組(省エネ、働き方、法令遵守など)を一覧にする。
  • 経営者と、1年後にどの状態を目指すかを共有する。

現在地の確認には、環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームにある「脱炭素経営レベル診断」が使えます。7つの質問に答えると、自社のレベルと次にとるべきアクションが分かる仕組みと案内されています。

ステップ2:GHG排出量の算定(2〜3か月目)

GHG排出量の算定とは、事業活動で排出される温室効果ガスの量を、活動量と排出原単位を使って計算することです。環境省の説明では、Scope1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、Scope2は他社から供給された電気や熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3はScope1・2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)と定義されています。

算定はどの順番で進めるか

算定の進め方には、環境省が示す基本の流れがあります。サプライチェーン排出量の算定は、算定方法の理解(STEP0)、算定目標の設定(STEP1)、算定対象範囲の確認(STEP2)、Scope3活動のカテゴリ1〜15への分類(STEP3)、各カテゴリの算定(STEP4)の順です。STEP4では、算定方法の決定、データ収集項目の整理と実施、活動量と排出原単位から排出量を計算する、という作業を行います。

最初の1年は、請求書で数字を追いやすいScope1・2から着手し、Scope3は分類と優先順位づけまでを目標にする進め方をおすすめします。順番の考え方は、スコープ1・2・3の違いと中小企業が優先すべき算定の進め方で詳しく解説しています。

使える公的な資料とツール

環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームには、次の資料が掲載されています。

  • 「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」(環境省・経済産業省、Ver.2.8が2026年3月に公表)。
  • 初心者向けの参考書や、基本的な算定手順と簡易な算定方法をまとめたパンフレット。
  • 排出原単位データベースと、排出量の算定ツール(Excel)。

取引先から排出量の算定を依頼された場合は、1年のスケジュールよりも先に回答期限が来ることがあります。その場合の確認事項と回答の手順は、取引先からCO2排出量の算定を依頼されたらを参照してください。

ステップ3:マテリアリティ特定と目標設定(4〜5か月目)

マテリアリティとは、自社の事業や、自社を取り巻く関係者にとって重要度の高いサステナビリティ課題のことです。すべての課題に同時に取り組むことは難しいため、重要な課題を絞って優先順位をつけるために特定します。

マテリアリティはいつ、どう決めるか

算定で自社の排出量が分かった後に決めると、「どの課題が自社にとって大きいか」を数字も踏まえて判断できます。進め方の基本は、課題の候補を洗い出し、自社への影響の大きさと、取引先・従業員などの関心の高さで整理することです。特定したら終わりではなく、事業環境の変化に合わせて毎年見直すことが望ましいとされています。手順の詳細は、マテリアリティ特定とは何か?中小企業が取り組む際の実務的な手順にまとめています。

削減目標はSBT認定を取らなくても立てられる

目標設定では、SBT(科学的根拠に基づく目標)を意識する企業が多くあります。環境省のページによると、SBTの認定は、基準年のScope1・2・3の算定、SBTiの基準に沿った目標の策定、社内の合意、申請という流れで進みます。Scope3まで算定する必要があるため、最初の1年で認定まで進めるのは負担が大きい場合があります。

まず自社の算定結果から現実的な削減目標を決め、SBTは次の段階の選択肢にする、という考え方もあります。中小企業向けの仕組みは、中小企業版SBTとはで整理しています。環境省のプラットフォームには、GHG排出削減計画の策定ガイドも掲載されているため、計画づくりの参考になります。

ステップ4:情報開示と社内外への発信(6〜8か月目)

情報開示とは、算定した排出量や目標、重要課題を、取引先・金融機関・求職者・従業員などが確認できる形で公表することです。中小企業の最初の開示は、数十ページの報告書ではなく、Webサイトの1ページや数ページの資料でも始められます。

最初に載せる項目の考え方

最初の開示では、次の項目から載せることをおすすめします。

  • 経営者のメッセージと、サステナビリティに取り組む理由。
  • 特定したマテリアリティと、その選び方。
  • Scope1・2の排出量と、算定の範囲・期間。
  • 削減目標と、その実現に向けた取組。

載せる項目の最低ラインは、サステナビリティ報告書・統合報告書の作り方と中小企業が最低限押さえるべき開示項目で解説しています。

開示基準の動きも確認しておく

日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、サステナビリティ開示基準を公表しています。SSBJは、公益財団法人財務会計基準機構の傘下にある基準設定主体です。自社が直接の対象かどうか、また取引先の開示を通じてどのようなデータを求められる可能性があるかは、SSBJ基準とは。上場企業の開示義務化の時期と、取引先である中小企業に求められるデータ提供で確認できます。

9〜12か月目:削減の実行と翌年への見直し

9か月目以降は、決めた目標に向けて削減を進め、算定データを更新する期間です。環境省のページでは、CO2削減の手順として「測定」「省エネの実施」「再エネの導入」「効果測定」の順を示しています。省エネは、空調、コンプレッサー、ボイラー、ポンプなどの運用改善によるエネルギーの無駄の削減、再エネは、太陽光発電の導入や再エネ電力の調達を指します。両者は同時並行でも取り組めると説明されています。

省エネの第一歩として、一般財団法人省エネルギーセンターの「省エネ診断」を検討できます。中小企業などの事業者を対象に、無料で診断を受けられる事業と案内されています。診断の種類ごとに受付期間が異なるため、申し込みの前に最新の案内を確認してください。

1年目の最後には、算定データと目標の達成状況を整理し、マテリアリティを見直し、来年度の計画へ反映します。第三者認証に興味がある場合は、エコアクション21とはも参考になります。

ネクストプレナーズの見解

中小企業のサステナビリティ経営は、担当者が1人か兼任であることが多いため、最初から全項目を網羅しようとすると続かなくなると考えます。まずScope1・2の算定と、重要課題を3つ程度に絞ることに集中し、公表は小さく始めることをおすすめします。よくある誤解は、「マテリアリティは一度決めれば終わり」「算定は完璧なデータがそろってから始める」という考え方です。どちらも、毎年更新しながら精度を上げていく前提で進めるほうが、実務では無理がありません。

1年目につまずきやすい3つの注意点

  • 担当者と時間を確保する:算定やデータ収集は、経理・総務・現場の協力が要ります。担当者の業務時間を事前に確保してください。
  • 算定範囲を最初に決める:対象の拠点や期間があいまいだと、翌年に比較できなくなります。範囲は文書に残してください。
  • 開示の根拠を残す:公表する数値は、請求書や使用量の記録まで遡れるようにしておくと、取引先からの質問にも答えやすくなります。

よくある質問

サステナビリティ経営は何から始めればよいですか?

最初は、推進担当者を決めて、自社の現状と取引先などからの要請を把握することから始めます。次に、請求書をもとにScope1・2の排出量を算定する流れが現実的です。

最初の1年でどこまで終わらせられますか?

現状把握、Scope1・2の算定、重要課題の整理と目標設定、簡易な情報開示までを目安にできます。Scope3の詳細な算定やSBT認定は、2年目以降に回す選択肢もあります。

専任の担当者がいなくても進められますか?

兼任でも進められます。ただし、データ収集の月に作業が集中するため、経理・総務・現場の協力をスケジュールに織り込むことが大切です。

費用はどのくらいかかりますか?

環境省の算定ツール(Excel)や参考資料は公開されており、自社で算定する場合は、追加の費用をかけずに始められます。外部の支援を使う場合の見方は、サステナビリティ経営コンサルの選び方で整理しています。

SBTの認定は最初の1年で取るべきですか?

最初の1年で取る必要はありません。SBTの認定にはScope1・2・3の算定が必要なため、まず自社の算定結果から現実的な目標を立て、必要に応じて次の段階で検討する進め方もあります。

監修

監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)

東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。

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